ーリヒテンシュタインの国名表記についてー
リヒテンシュタインの正式名称は、同国の公用語(ドイツ語)では「侯爵(Fürst)」の治める国、すなわち「Fürstentum Liechtenstein」とされており、こうした歴史背景や政治的形態も考慮し、当協会ではその日本語訳として「リヒテンシュタイン侯国」と表記することが最もふさわしいと考えています。日本では第二次大戦後にいわゆる「爵位」が廃止されたため耳にすることがあまりありませんが、ヨーロッパの歴史の中で「ロイヤルファミリー」を有する国の名称は、各々厳格な名称が定められており、それを勝手に逸脱することは許されておりません。因みにこうした称号のランクは上から順に、
皇帝(Kaiser カイザー)
王(König ケーニヒ)
大公(Erzherzog エルツヘルツォーク)
公(Herzog ヘルツォーク)
侯(Fürst フュルスト)
方伯(Landgraf ラントグラーフ)
伯(Graf グラーフ)
の順になります。従ってルクセンブルクは「大公国」、リヒテンシュタインは「侯国」と表記すべきところです。こうした国の序列は今でも継承され、例えばロイヤルファミリーのおられる国でのご成婚式やご葬儀が行われる際、招待客の席順もこうしたことに基づいて決定されることが多いのです。
ではなぜ「リヒテンシュタイン公国」と表記するケースが日本ではあるのでしょうか。その一因は、戦後日本では新聞社が独自の漢字コードを定め、それ以外の漢字を紙面から排除してきたことにあります。つまりこの「新聞社コード」の漢字に「侯」の字がなく、すべて「公」の字をその代替として用いてきたのです。
「公国」と表記されるもう一つの要因は外務省がウェブサイトに「リヒテンシュタイン公国」と表記していることが挙げられます。これは外務省の場合、全世界200を超す国や地域と交渉を行う関係上、英語を基本に利用しており、英語名「principality Liechtenstein」からの訳として「リヒテンシュタイン公国」と表記しているとのことです。英語では「Principality」は大公国、公国、侯国を包括する単語であり、そのことから「リヒテンシュタイン公国」としたとのことです。
(2004年9月 当協会から在スイス日本大使への申し入れに対する外務省の回答による。)
※なお、「侯」の字は「候」とは異なりますので、印刷物等に表記される際はご注意ください。